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What you don't know is what you are to know

自由意志とは何か 「人間は"ちょっぴり"ロボットじゃない」

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「自由意志」って一体全体どういう意味の概念なんでしょう。それを理解するために、

簡単な思考実験と私的な自由意志の解釈と解説を用意しました。身近な哲学を楽しみましょう!

  • 長いので先にまとめると
  1. 自由意志とは文字通り、自由(Free)な意思(Will)、自分自身がちゃんと考えてるよ、ってこと
  2. 細胞も神経も元を辿れば粒子の相互作用だから思考も全部ただの結果なんじゃない?
  3. じゃあ自由意志はないの?あるの?
  4. 現段階でわかることは「0.2秒間だけ存在する」、らしい




”あなた”とロボットは何が違う?


「あなたがロボットではないことを証明してください」

この問題にどう答えるでしょうか。

「自分の体は金属で出来ていないし、脳みそだってちゃんとある。」

では、客観的な測定では人間と区別がつかない高性能なスーパーロボットを用意しましょう。

体が有機物と水で構成され、ジョークを交わすことから感動的なシーンに涙することまで、人が出来ることは何でも出来るこのスーパーロボットくんはあなたと何が違うのでしょうか。

「ロボットはプログラミングに従って動いているだけだ。」

「私の感覚、思考、気持ちはプログラムではない。」

しかし、ジョークを話すまでに至ったスーパーロボットくんは果たしてプログラミングに従っているだけと言えるのでしょうか。

逆に、あなたの感じているものはプログラムではなくどこから産み出されているのでしょうか。




「私が”考えている”というこの感覚は私でしか持ちようのない唯一無二のことなんだ。」


このように超高性能なスーパーロボットくんを想定すると、ロボットとの違いを示す根拠は主観的なものにしか頼れなくなります。

あなたがある感情を抱き、ある思考をするのは、決して自動的、機械的な反応ではない、

つまり、”考える”というプロセスが”あなた”を”あなた”たらしめる、という主張にたどり着きます。

これは、哲学者デカルトの主張「我思う、故に我有り(=すべての存在は疑いうるが、今ここで考えている自分自身の存在だけは絶対である)」とも共通点を見出せますね。

この主観的な感覚をもとに、私はロボットとは違う、と証明できるでしょうか。



”考える”ことは本当に”自由”なのか


ここで大事になってくるのは、あなたの思考はどのように産み出されるのか、ということです。

上記のように「私の感覚、思考、気持ちはプログラムではない。」と言いたいのであれば、あなたの思考は機械的な枠組みを超えて生じなければなりません。

押したら押し返される、手を離したら物が落ちる、といったストレートな"原因"と"結果"の関係から、あなたの思考は遠く離れていなければなりません。

なぜならあなたの思考が本当に自由であるためには、あなたの思考はすべてのあなた自身から生まれなければならない、からです。


つまり、すべての外的要因、要素を排除してもなお生じる思考だけがあなたとロボットの違いを作るのです。


この、「すべての外的要因、要素を排除してもなお生じる思考」がここでいう自由意志です。

自由意志とは、”あなたとロボットの差異を考えるためには想定しなければならない概念”なのです。

では改めて考えてみると、あなたの中に自由意志は本当に存在するのでしょうか?




じゃあ一体全体、自由意志とは

答えは非常に懐疑的です。例をあげて考えてみましょう。

あなたは何か感動的な映画を観たとします。観終わった後、何とも言えない感傷的な気分に包まれました。

その感情はすべてあなた由来の感情でしょうか。100%あなたが産み出した気分と言ってしまっていいのでしょうか。

とりあえず現時点ではこれは自由意志だと考えておきます。

では物理的な、ミクロな視点を導入してみましょう。

あなたは視覚と聴覚に刺激を受け、その刺激は神経を伝って脳に到達します。ニューロン同士のやりとりがあった後、脳は「悲しい」という電気信号をアウトプットします。

これが、あなたの感情を産み出した"原因"です。

さらに言うと、網膜に備わる有機物の分子構造は光のエネルギーを受け取ることで活性化し、分子構造を変化させるとともに、異なる電位の状態に移ります。

分子構造と電位の変化を起因として、神経や脳を形作る分子たちが作用を受けます。そうして何億もの粒子たちがぶつかり、形を変え、エネルギーをもらいあなたの脳に変化を与えます。

言ってしまえば、これら無数の分子、および原子の相互作用、観測された物理法則があなたの感情を産み出したのです。


これでもなお、あなたの感情、思考は自由意志と言えるでしょうか。




”決定論”と”ラプラスの悪魔


ここでひとまず「ロボットとあなた」の思考実験を休憩にして、”決定論”と”ラプラスの悪魔”いう概念についてお話しします。

決定論とは、世の中のあらゆる事象は先行する何らかの原因によって引き起こされているとする哲学の考え方です。

物理的な因果関係、神の全知、経験的法則、など様々な解釈がありますが、つまるところ決定論は、未来はすべて決まっているんだ、とする立場です。


この決定論は古典物理学とも非常に深い関係があります。

物理学がちょうど発展してきた頃、物理学者達はすべての粒子の法則性を暴こうという夢に囚われていました。

マクロな視点から見た世界は非常に均衡が取れていて、物理法則に機械的に従っているように見えたからですね。

では、宇宙にあるすべての粒子の挙動(正確には位置と速度)が分かったらどうなるのでしょうか。

古典物理学者たちは、「未来の粒子の挙動すべて、ひいては現象すべてが分かる。」と考えました。

なぜなら、マクロな視点の物理学では直接的な因果関係以外の関係は見つからなかったからです。

そして物理学者は、広大な全宇宙の中の極小の微粒子すべての挙動がわかるもの(これをラプラスの悪魔と言います)を想定しました。言わば全知全能の神を言い換えた存在ですね。

ラプラスの悪魔を想定することは必然的に「決定論」を支持することになります。悪魔は今の宇宙も未来の宇宙も全部分かってしまうのですから。

こうして古典物理学ラプラスの悪魔を通じて決定論を関係を深くしていきます。


やっぱり自由意志なんて無いじゃないか

もしこの悪魔が存在しているとすると、悪魔は全宇宙を知り尽くしているのですから、あなたの脳を構成する原子や分子の挙動も知っています。

ですので、この悪魔は、あなたが3秒後何を思って何をするのか手に取るように分かってしまうのです。

あなたが知らないあなたの未来の感情をこの悪魔は何十億年も前から知っています。ここに果たして自由意志なんて存在するんでしょうか

量子力学が自由意志を救う?

いよいよ自由意志の存在は絶望的になってきましたが、ここでちょっと思い出して欲しいのは、今まで話してきたことは古典物理学における知見、だということです。

ラプラスの悪魔は、「粒子の挙動(位置と速度)」が完璧にわかるという、古典物理学の前提の上に想定されています。そもそもこの前提は現代では通用しません。(長々と話して申し訳ありませんが)

筆者はあまり詳しくないので、細かい言及は避けますが、現代科学の叡智「量子力学」においては、ミクロな視点では粒子の挙動を完全に知るのは不可能だと言うことが分かっています。

「位置」を特定すると「動き」が、「動き」を特定すると「位置」が分からなくなってしまうのです。

つまり、全宇宙どころか目の前にある粒子の正確な挙動さえ知るものはいないのです。

結局、ラプラスの悪魔なんてものは存在しない未来を知るものは存在しない未来は決定的ではない!ことが分かったんですね。

目の前の粒子でさえ挙動が完璧には分からないのです。あなたの脳みそ全体なんて持っての他です。




自由意志はあるの?ないの?

現代科学の進歩のおかげで、物理の範疇からは”自由意志はないとは言えなく”なりました。

なので、物理学にはこれからもミクロな視点での研究を続けてもらうとして、今度は新たなアプローチをしてみましょう。


Bereitschaftspotential(BP)という言葉をご存知でしょうか。またの名をRediness Potential(RP)、日本語で準備電位と言います。

準備電位は1960年代から、「脳が身体を動かそうと意識する際、筋肉に先立って発される電気信号」として存在が知られていました。まさに身体を動かす”準備”のための”電位”です。

この準備電位を詳しく調べた科学者が1980年代にいました。脳神経学者ベンジャミン リベット氏です。

リベット氏の研究は準備電位に関して興味深い事実を伝えています。

「準備電位は”意志”よりも早い段階で脳内に発生する。」

この言葉が持つ意味を理解できるでしょうか。リベット氏によると、私たちが頭の中で「腕を動かそう」と意識するコンマ数秒前には準備電位が流れ始めている、のだそうです。

つまり、何かをしようという意志決定は私たちの”意識”がしているのではなく、無意識化で産み出された”準備電位”が行っている、ということになるのです。

ここで思い出して欲しいのは、最初に話した「あなたとロボット」の思考実験です。

あなたとロボットの違いを示すには、

  • あなたの思考はプログラムではない
  • あなたの意識はあなた自身から生じなければならない

ことが必要でした。

いま改めて考えると、思考は本当にプログラムではないのでしょうか。意識はあなた自身から生じていると本当に言い切れるのでしょうか。

リベット氏の研究は、意志決定が”無意識化”で行われていることを示しています。

無意識化で行われた意志決定とプログラム、どこに違いがあるでしょうか。




あなたは”0.2秒間”だけ”無意識”から解放される

リベット氏の研究によると、腕を動かそうとすると、準備電位は350mm秒だけ意識よりも早く生じて、実際に意識してから200mm秒後に腕が動き始めるそうです。

なんと腕が実際に動く0.5秒前の時点から”無意識”は動かす準備をしているらしい。

では、私たちの未来は常に”無意識”によって決められているのでしょうか。


そうではなかったのです。

ベルリン大学による最新研究The brain-computer duel: Do we have free will? -- Prof. Dr. John-Dylan Hayne によると、0.5秒前の無意識による意志決定は0.2秒前の"意志"によって覆せる、のだそう。

“A person’s decisions are not at the mercy of unconscious and early brain waves. They are able to actively intervene in the decision-making process and interrupt a movement,” says Prof. Haynes.

ハインズ教授「意志決定は無意識と準備電位だけで行われはしない。能動的に意志決定や"無意識"に介入することは可能である。

Our study now shows that the freedom is much less limited than previously thought. However, there is a 'point of no return' in the decision-making process, after which cancellation of movement is no longer possible.”

我々の研究によって、自由な意志は以前考えられてきたよりも遥かに限られたものだとわかった。しかし、意志決定には、後戻りできないポイント、というものが存在する。それを越えると"無意識"の意志決定を変えることは不可能になってしまう。」

つまり、私たちには0.2秒間の自由意志が与えられているのです。

ごくわずかですが人間に与えられたこの"余地"なくしては、人間はロボットと変わりありません。(暴論だと感じるでしょうか)

ですが、この違いをもってあなたは"無意識"から解放され、ロボットとの違いを勝ち取るのです。

最後に

長々と話して来ましたが、現時点での筆者の結論は、タイトル通り「人間は"ちょっぴり"ロボットじゃない」です。

ただしここでいう「ちょっぴり」は時間的な意味においてです。

この「ちょっぴり」があなたをあなたたらしめてくれるのです。